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東京高等裁判所 昭和51年(行コ)49号 判決

千葉県印旛郡印西町船尾一三二一番地

亡横尾治夫訴訟承継人

控訴人

横尾容子

同所同番地

控訴人

横尾文子

同所同番地

控訴人

横尾安彦

右法定代理人・親権者母

横尾容子

右控訴人ら訴訟代理人弁護士

松本昌道

正田茂雄

尾崎正吾

佐藤義行

千葉県成田市花咲町八一二番地一二

被控訴人

成田税務署長

早川豊

右指定代理人

宮北登

三宅康夫

蔵坪達男

森田哲夫

右当事者間の所得税更正処分取消等請求控訴事件について、当裁判所は、次のとおり判決する。

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人らの連帯負担とする。

事実

一、控訴人ら代理人は、「原判決を取消す。被控訴人が昭和四四年一月二〇日付でした控訴人らの被相続人亡横尾治夫の昭和四二年分の所得税額を金九一七万五、〇〇〇円とする更正処分のうち金三一一万六、八〇〇円を越える部分及び過少申告加算税賦課処分をそれぞれ取消す。訴訟費用は第一・二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴人代理人は、主文第一項同旨及び「訴訟費用は控訴人の負担とする。」との判決を求めた。

二、当事者双方の主張及び証拠の関係は、次のとおり訂正、付加するほか、原判決事実摘示のとおりであるから、それをここに引用する。

1  訂正等

(一)  原判決二枚目表一一行目「二月一〇日」を「二月二〇日」と、同三枚目裏四行目「その」を「御園の」と、同五行目「大字林」を「林」と、同六行目「四四、五一八・五五平方メートル」を「四四、四五六平方メートル」と、同七行目「二七歩」を「八歩」と、同一〇行目「三、〇三二平方」を「三、〇三八平方」と、同一一行目「(三反歩)」を「(三反一九歩)」と、同五枚目裏三行目「三、〇三二平方メートル」を「三、〇三八平方メートル」と、同六行目七行目「(増歩登記後の面積五一、八四二平方メートルで計算)」を「(増歩登記前の面積四四、四五六平方メートルで計算)」と、同六枚目表八行目「三〇〇」を「三、〇〇〇」と、同七枚目表四行目「六、〇五九、〇〇〇円」を「六、〇五八、二〇〇円」と、同裏八行目「認める。」を「認める。)。」と各訂正し、同八枚目表一行目の次に「(五) 同(五)は、昭和四二年度の譲渡所得金額が被控訴人主張のように三、八六一万〇、八六一円である場合の同年度の所得税額が九一七万五、〇〇〇円であることは認める。」を加え、同二行目「(五)」を「(六)」と、同一四枚目裏八行目全部を「2 原審証人高野節雄(第一、二回)、証人菊池正一、訴訟承継前の原告亡横尾治夫本人。」と、同九行目「第二一号証の一二の」を「第二一号証一、二の各」とそれぞれ訂正する。

(二)  右のほか、原判決二枚目表七行目の「原告」を「控訴人らの被相続人亡横尾治夫(以下、「亡治夫」という。)」と、その余の「原告」を「亡治夫」と、「被告」を「被控訴人」と各訂正する。ただし、原判決七枚目表末行目同裏一行目、同八枚目表三行目、同一三枚目表一一行目、同一二行目、同裏一行目、同四行目、同六行目、同一四枚目表六行目、同裏五行目の各「原告」は、「控訴人ら」と訂正する。

2  当審における主張

(一)  控訴人らの主張

(1) 被控訴人が、印西町の山林の譲渡による対価として亡治夫が取得した平川町の山林につき、その評価額を桐谷・根本の両名が公明開発に売渡した際の代金額二、一七〇万円を基礎として算出したことは、妥当でない。かかる場合は、その当時用いられていた国税庁長官通達による相続税財産評価基準によつて評価すべきである。

(2) 仮に、右(1)の主張が認められないとしても、平川町の山林の評価額は、御園が昭和四二年九月一六日桐谷・根本の両名に旧平川町の山林と三反歩の山林とを売渡した際の代金額一、八三〇万円を基礎として算出すべきものである。

(二)  被控訴人の反論

(1) 本件は、所得税法上の譲渡所得に関するものであるから、相続税財産評価基準によつて評価すべき旨の控訴人の主張は、失当である。

(2) 控訴人主張の御園と桐谷・根本との間の売買価額は、平川町の山林と印西町の山林との交換直前の売買価額ではなく、他方、桐谷・根本と公明開発との間の売買は、通常の取引価額に基づいてされたと認められるから、控訴人の主張は、失当である。

3  当審における新たな証拠

(一)  控訴人ら代理人は、甲第二一号証の六、第二二号証の一ないし四、第二三号証の一ないし三、第二四号証の一ないし四、第二五号証の一ないし一五、第二六号証の一ないし五、第二七号証を各提出し、当審証人高野節雄の証言を援用し、また、乙第二三、第二四号証の各成立を認めると述べた。

(二)  被控訴人代理人は、乙第二三、第二四号証を提出し、また、甲第二二号証の二、第二三号証の二、第二四号証の二、第二五号証の二、第二六号証の二の各成立は知らない、その余の当審提出の甲号証の各成立は認めると述べた。

理由

一、更正処分及びその審査請求等について

亡治夫が昭和四二年度の所得税について原判決別表記載申告額欄のとおり確定申告をしたところ、被控訴人が控訴人ら主張のとおりの更正処分及び過少申告加算税賦課処分をしたこと、亡治夫が右各処分について異議申立をしたところ、被控訴人がこれを棄却する旨の決定をしたこと、亡治夫が更に東京国税局長に審査請求をしたところ、同局長が昭和四五年四月一三日右審査請求を棄却する旨の裁決をし、同月一七日、その裁決書謄本を亡治夫に送達したことは、いずれも当事者間に争いがない。

二、更正処分の適否について

1  旧平川町の山林等の売買及び分筆・増歩登記について御園の代理人山口が、昭和四二年九月一六日、桐谷・根本の両名に対し、御園所有の旧平川町の山林四四、四五六平方メートル(四町四反八畝八歩)及び三反歩の山林三、〇三八平方メートル(三反一九歩)を代金一、八三〇万円で売渡し、次いで、右両名が、同年一〇月一一日、公明開発に対し、右両山林を代金二、一七〇万円で売渡したこと、その後、旧平川町の山林が同年一一月一八日受付で原判決別紙物件目録二記載(一)(二)の二筆の土地に分筆登記され(これにより「平川町の山林」となる。)、更に、右(一)の土地について同月二五日受付で増歩登記がされ、その結果、平川町の山林の面積合計が五一、八四二平方メートル(五町二反三畝二三歩)となつたこと、右公明開発の代表取締役が高野節雄(以下、「高野」という。)であることの各事実は、当事者間に争いがない。

2  控訴人ら主張の合意解除の成否について

控訴人らは、昭和四二年一一月ころ、御園の代理人山口と桐谷・根本の両名との間及び右両名と公明開発との間で、それぞれ前記各売買契約を合意解除した旨主張する。

しかし、原審及び当審証人高野節雄の各証言(原審は第一、二回)並びに訴訟承継前の原告亡横尾治夫本人の供述(以下、「亡治夫本人の供述」という。)のうち右主張に沿う部分は、原審証人高野節雄の証言(第一回)により真正に成立したことが認められる乙第六号証、証人御園睦雄の証言により真正に成立したことが認められる乙第七号証、証人桐谷光の証言(第一回)により真正に成立したことが認められる乙第八号証、証人桐谷光(第一、二回)及び同御園睦雄の各証言に照らして、いずれも信用することができず、他に、右合意解除の事実を認めるに足りる証拠はない。

3  被控訴人主張の交換契約の成否について

(一)  被控訴人は、亡治夫と公明開発との間で、亡治夫所有の印西町の山林と公明開発所有の平川町の山林とを交換する契約が成立した旨主張するので、この点について判断する。

(1) 証人桐谷の証言(第一回)並びに同証言により原本の存在及び真正に成立したことが認められる乙第一ないし第四号証によれば、御園から旧平川町の山林及び三反歩の山林を買受けた桐谷根本の両名は、売買契約書の作成日である昭和四二年九月一六日、手付金三〇〇万円を御園に支払い、残金全額を同年一〇月一六日に完済したこと、同売買契約書には、所有権移転の時期は代金の支払が完了された時とする旨の特約が記載されていること、右両山林を右両名から更に買受けた公明開発は、売買契約書の作成日である同年一〇月一一日、手付金二〇〇万円を右両名に支払い、残金一、九七〇万円は同年一一月一〇日までに支払う旨約したこと、同売買契約書には、所有権移転の時期についての特約の定めはとくに記載されていないことの各事実が認められる。

(2) 亡治夫本人の供述(前記信用しない部分を除く。)によれば、亡治夫が印西町の山林と平川町の山林とを交換する契約を締結するに先立つて交渉をした相手は、公明開発の高野及び北総開発株式会社(以下、「北総開発」という。)の浅野社長のみであつて、御園とは全く会つておらず、同人の代理人山口とも、契約書作成の際に司法書士事務所で一回会つたにすぎないことが認められる。

(3) 前掲乙第六号証、同号証及び弁論の全趣旨によりいずれも真正に成立したことが認められる乙第一四号証及び同第一八ないし第二〇号証を総合すれば、公明開発は、同年一二月一二日、印西町の山林を代金二、六七七万八、九七八円で北総開発に売渡し、同日、右代金の一部として二、四〇〇万円を受領し、同月二九日、右代金の一部として七五万円を受領したこと、また、公明開発の北総開発あての金二〇二万八、九七八円の同月二八日付領収証(乙第一九号証)が存在することが認められる。

(4) 亡治夫本人の供述(前記信用しない部分を除く。)並びに同供述により原本の存在及び真正に成立したことが認められる甲第一三号証によれば、亡治夫は、北総開発の浅野社長から、同年一二月中に土地交換差額金として二〇二万八、九七八円の交付を受け、同額の領収証(甲第一三号証)を作成して同社長に交付したことが認められる(ただし、右領収証には、あて名人として御園の姓名が記載されているが、証人御園の証言によれば、御園は同差額金を支払つていないことが認められるから、右あて名人の記載をそのまま信用することはできない。)。

右認定の各事実に前記二1の当事者間に争いのない事実を加えて考察すれば、昭和四二年一二月初旬又は中旬ころ、亡治夫と公明開発との間で、亡治夫所有の印西町の山林と公明開発所有の平川町の山林とを交換し、かつ、公明開発が補足金として二〇二万八、九七八円の金員を亡治夫に交付する旨の契約が成立したものと推認するのが相当である。

もつとも、印西町の山林につき、亡治夫から御園に対し、交換を原因として同年一二月一五日受付で所有権移転登記がされ、他方、平川町の山林につき、御園から亡治夫に対し、交換を原因として同月二〇日受付で所有権移転登記がされていることは、当事者間に争いがなく、また、成立に争いのない甲第二ないし第九号証及び同第二三号証の一によれば、印西町の山林につき、御園から北総開発に対し、同年一二月一四日売買を原因として同月一五日受付で所有権移転登記のされていることが認められるが、登記は必ずしも権利の変動の真実の状態と合致するものではなく、世上往々にして中間省略の登記がされることは公知の事実であるから、右各登記があるからといつて、前記推認を覆すに足りず、他に、前記推認を覆すに足りる証拠はない。

(二)  控訴人らは、公明開発と亡治夫との交換であるというためには、イ、旧平川町の山林の所有権が公明開発に移転していること、ロ、亡治夫と御園間の交換につき、無効原因の存することが必要である旨主張する。

しかし、右イの点については、前記二3(一)(1)において認定した事実によれば、旧平川町の山林の所有権は昭和四二年一〇月一六日に公明開発に移転したものと解するのが相当であり、また、ロの点については、前記二2において説示したとおり、御園と桐谷・根本の両名間及び右両名と公明開発間の前記各売買契約の合意解除の事実が認められないのであるから、亡治夫と御園間の交換契約の存在を認めることはできず、したがつて、右主張は、いずれも、失当というべきである。

4  更正処分についての結論

(一)  叙上認定の事実によれば、亡治夫がその所有する印西町の山林と公明開発所有の平川町の山林とを交換した際、公明開発が平川町の山林を所有していた期間が一年未満であることは明らかであるから、亡治夫が印西町の山林を交換という形で譲渡したことによる所得の計算につき、所得税法第五八条第一項の交換の特例措置を適用するに足りる要件を充足していたものということはできない。

(二)  控訴人らは、亡治夫は平川町の山林について御園が一年以上所有していたものと信じていたから、右特例措置を適用すべきである旨主張する(控訴人らの反論(五))。

しかし、所得税法は、実質課税を原則とし、客観的な事実に基づいて課税をするのがたてまえであつて、納税者の主観的判断によつて課税権の存否を決することはできないものというべきであり、まして、交換の一方当事者についてのみ右特例措置を適用するということは、租税の公平負担の原則上、許されないものというべきである。したがつて、仮に、亡治夫が控訴人ら主張のごとく信じていたとしても、右特例措置を適用すべき根拠とはならないから、控訴人らの右主張は失当といわざるをえない。

(三)  以上によれば、亡治夫の印西町の山林の交換譲渡についての譲渡所得の計算は、所得税法第三六条、第三八条等に定める通則的計算方法に拠ることとなる。そこで、亡治夫の昭和四二年度の譲渡所得について計算すれば、次のとおりである。

(1) まず、亡治夫が印西町の山林を譲渡したことによつて得た収入金額について算定する。

イ 公明開発が昭和四二年一〇月一一日桐谷・根本の両名から旧平川町の山林(四四、四五六平方メートル)及び三反歩の山林(三、〇三八平方メートル)を買受けた際の代金額は、前記のとおり、合計二、一七〇万円であつたから、同代金額を基礎として、面積按分比例により、旧平川町の山林の代金相当分を算出すると、二、〇三一万一、九三八円となる(〈省略〉、円未満切捨、以下同じ。)。そして、旧平川町の山林は、前記のとおり、その後分筆、増歩の各登記を経て平川町の山林となつたのであるから、右二、〇三一万一、九三八円をもつて同年一〇月一一日当時における平川町の山林の価額とするのが相当である。

ところで、亡治夫が、同年一二月初旬又は中旬ころ、印西町の山林を交換という形で譲渡し、その対価として公明開発から取得したのは、前記のとおり、平川町の山林及び交換にかかる補足金二〇二万八、九七八円であるから、印西町の山林の譲渡にかかる収入金額は、右平川町の山林の価額二、〇三一万一、九三八円に右補足金二〇二万八、九七八円を加えた二、二三四万〇、九一六円であるというべきである。

ロ 控訴人らは、平川町の山林の評価方法につき、相続税財産評価基準によるべきである旨主張するが(当審の主張)、譲渡所得に対して課される国税は、所得税であつて(所得税法第二二条第二項、第三三条等)、相続税ではないから、相続税を賦課するための財産評価基準によつて評価するのは相当でなく、また、所得税法第三六条第一、二項には、収入が金銭以外の物等である場合は、取得時における当該物等の価額とする旨規定されているところ、本件の場合には、平川町の山林について、亡治夫が印西町の山林の対価として右平川町の山林を取得した時より約二か月前に、前記のとおり、桐谷・根本と公明開発との間で実額取引があつたのであるから、その実額取引の価額をもつて同山林の価額とするのが最も適切であるというべきである。したがつて、控訴人らの右主張は理由がない。

ハ また、控訴人らは、御園が昭和四二年九月一六日桐谷・根本の両名に対して旧平川町の山林等を売渡した際の代金額を基礎として同山林の価額を算定すべきである旨主張する(当審の主張)。

しかし、御園と桐谷・根本との間の売買は、亡治夫と公明開発との間における同年一二月初旬又は中旬ころの前記交換契約の直前のものではなく、他方、平川町の山林(右イで二、〇三一万一、九三八円相当と算定)と補足金二〇二万八、九七八円(合計二、二三四万〇、九一六円)をもつて交換された印西町の山林が、前記二3(一)(3)で認定したとおり、公明開発から北総開発に対して同年一二月一二日代金二、六七七万八、九七八円で売渡されている事実に照らし、同年一〇月一一日にされた桐谷・根本と公明開発との間の前記実額取引の価額(旧平川町の山林と三反歩の山林とで合計二、一七〇万円)は、当時の価額としては相当であつたと解されるから、控訴人らの右主張は、理由がないものというべきである。

(2) 次に、亡治夫の譲渡資産たる印西町の山林の取得費について算定する。

成立に争いのない甲第二ないし第九号証、乙第二三、第二四号証によれば、印西町の山林八筆は、いずれも亡治夫の被相続人横尾昇が昭和二七年一二月三一日以前に取得し、昭和四一年三月二八日亡治夫がこれを相続したこと、同山林八筆の昭和二八年一月一日現在における九九一・七三平方メートル(一反歩)当りの賃貸価格はいずれも九〇銭と定められていたこと、同日現在における相続税財産評価基準において、同山林八筆の所在する千葉県印旛郡については、評価倍数が三、〇〇〇倍と定められていたこと、同山林八筆の合計地積は二八、二五七平方メートル(二八・四九二六反歩)であることの各事実を認めることができる。また、所得税法第三八条第一項、第六一条第二項、同法施行令第一七二条第一項、昭和二六年一月二〇日直資一-五国税庁長官の「富裕税財産評価事務取扱通達」及び昭和二八年一月一六日直資五国税庁長官の「資産税課長会議において指示した事項について」と題する通達によれば、昭和二七年一二月三一日以前に取得した譲渡資産たる山林の取得費は、昭和二八年一月一日現在の九九一・七三平方メートル(一反歩)当りの賃貸価格に相続税財産評価基準(富裕税の基準と同じ。)に基づく評価倍数を乗じ、それに当該山林の面積を乗じて算出することと定められている。

そこで、右算出の方法に従つて印西町の山林の取得費を算定すると、七万六、九三〇円となる(90銭×3,000×28.4926反=7万6,930円)。

(3) 亡治夫は、昭和四二年度において、木下不動産に対しても資産を譲渡しているので、これをも含めて譲渡所得の金額を算定すれば、次のとおりである(なお、木下不動産に対する関係は、後記金額をも含めて当事者間に争いがない。)。

イ 譲渡にかかる収入金額

印西町の山林分 二、二三四万〇、九一六円

木下不動産への譲渡分(申告分) 一、六六八万六、二二六円

計 三、九〇二万七、一四二円

ロ 取得費等必要経費

印西町の山林分 七万六、九三〇円

木下不動産への譲渡分(申告分) 三万九、三四七円

計 一一万六、二七七円

ハ 譲渡所得金額

右イの計からロの計を差引き、譲渡所得の特別控除金額三〇万円を控除した三、八六一万〇、八六五円が、亡治夫の昭和四二年度の譲渡所得の金額となるべきところ、被控訴人は、右金額よりも低額の三、八六一万〇、八六一円をもつて、亡治夫の同年度の譲渡所得の金額とした。

(四)  被控訴人は、右譲渡所得金額につき、所得税法第二二条第一、二項により、同金額の二分の一の一、九三〇万五、四三〇円をもつて課税標準金額とし、これに農業所得(申告分)を加えて同年度の総所得金額を一、九六八万一、二一三円として、原判決別表更正額欄記載の所得税額九一七万五、〇〇〇円を算出したものであるが、成立に争いのない乙第二一号証の一、二及び所得税法の関係法条に照らし、右所得税額の算定について誤りは認められないから、結局、被控訴人の亡治夫に対する更正処分は、適法であるというべきである。

三、過少申告加算税の賦課処分の適否について

1  右賦課処分の適否

国税通則法第六五条第一項、第三五条第二項第二号に照らし、原判決別表更正額欄記載の過少申告加算税額三〇万二、九〇〇円の算出方法について誤りは認められないから、被控訴人の亡治夫に対する過少申告加算税の賦課処分は相当である。

2  控訴人らの主張について(控訴人らの反論(六)の各主張)

(一)  控訴人らは、右賦課処分に関し、国税通則法第六五条第二項に定める正当な理由がなかつたことにつき、被控訴人が主張立証すべきである旨主張するが、右規定の文言上、正当な理由があると主張する者において主張立証の責任を負うものと解するのが相当であるから、被控訴人にその主張立証の責任はなく、したがつて、控訴人らの右主張は理由がない。

(二)  控訴人らは、亡治夫は平川町の山林が御園の所有であると信じていたから、同条第二項に定める正当な理由がある旨主張する。

しかし、原審及び当審証人高野節雄の各証言(原審は第一、二回)及び亡治夫本人の供述のうち右主張に沿う部分は、前記二3において認定した事実に照らし、いずれも信用することができず、他に、右主張の事実を認めるに足りる証拠はない。したがつて、右主張は、理由がない。

(三)  控訴人らは、国税通則法第六五条第二項は憲法第三一条に違反し、したがつて、同条は全体として無効である旨主張する。

しかし、憲法第三一条は、刑罰その他の不利益な処分を課される場合について規定したものであるところ、国税通則法第六五条第二項は、不利益な処分を課するための規定ではないから、控訴人らの右主張は失当というべきである。

四、結論

叙上のとおりであるから、その余の点について判断するまでもなく、控訴人らの本訴各請求は理由がなく、これを棄却した原判決は相当であり、本件控訴は理由がないから、これを棄却することとし、訴訟費用の負担につき、行政事件訴訟法第七条、民事訴訟法第九五条、第八九条、第九三条第一項但書を各適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 日野原昌 裁判長裁判官枡田文郎、裁判官佐藤栄一は、いずれも転任につき署名捺印することができない。裁判官 日野原昌)

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